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2chのログを暫定的に貼り付けるよ。

夢枕獏の文体のガイドライン ガイドライン@2ch:


15 :水先案名無い人:2005/06/09(木) 22:23:55 ID:vXqhHEnj0
“ぬるぽっ”
眼窩に指を突っ込んだ。
「餓ッ」
たまらず叫んだ。
16 :水先案名無い人:2005/06/09(木) 22:58:55 ID:oJObNHdm0
「何したんや!?」
「何も」
 ちよちゃんは答えた。
「技さ」
「技やて!?」
「技術だよ」
「な、な──」
 大阪は、言葉にできない声をあげた。
「何がおこったか大阪さんにはわからんだろうが、これは神
秘な力でもなんでもないよ」
「──」
「これは技術さ」
「技術やて?」
 大阪は、歯を噛みながら、割れた割り箸を見つめていた。
 息をするのさえ、忘れてしまいそうであった。
 割れるのか。
 そう思う。
 ただの割り箸が、ここまできれいに割れるのか。
 できるのか。
 やれるのか。
 やれるのだと、ちよちゃんの笑みが言う。


17 :水先案名無い人:2005/06/09(木) 22:59:14 ID:oJObNHdm0
できるのだと、手にした割り箸が叫んでいる。
 さっきの自分の割り方などとは、根本的に違う。
 研ぎ澄まされた日本刀で、何もかも根こそぎ断ち切るよう
な割り方。
 大阪は、それを見ていた。
 膝が、がくがくと震えていた。
 何か、凄まじいものが、背を駆け抜けている。背を駆け
登ってゆく。
 駆け登って、脳天に突き抜ける。
 駆け登っても、駆け登っても、突き抜けても突き抜けても、
まだ終わらない。まだ足らない。
 自分の背の底に、何か巨大な力の塊が、無尽蔵にあっ
て、それが次から次に背を駆け登ってゆくようだった。
 震えるな。
 震えるな。
 身体の震えを、止めようとしても止めようとしても、止まら
ない。


18 :水先案名無い人:2005/06/09(木) 22:59:29 ID:oJObNHdm0
なんという。
 なんという。
 まったく、なんというものを見たのか。
 なんという割り方なのか。
 今、眼の前に見たばかりのとてつもない光景。
 それは、自分は、本当に見たのか。
 大阪は、震える足を、前に踏み出した。
 ちよちゃんに向かって。
「どうしたい、え?」
 ちよちゃんが言った時、ようやく、大阪が口を開いた。
「あたしに・・・・・・」
 大坂は、やっと言った。
「あたしに、割り箸の割り方を教えてくれへんか──」
20 :水先案名無い人:2005/06/10(金) 00:14:13 ID:Fts8HvMM0
 昼食の席であった。
 目の前には、スパゲティナポリタンが置かれている。
 これから自分が食べる料理なのであるが、それを眺めていると、
どうしてもあることが頭に浮かんでしまう。
 ずっと不思議に思っていたことであった。 積年の疑問である。
 それは、
 なぜナポリタンは赤いのであろうか──
 という問いであった。
 簡単のように見えるが、奥の深い問題であった。
「赤いから赤いのだ」
 などと、トートロジーを並べて悦に入る浅薄な人間もいる。
 しかしそんなものは、思考停止に他ならなかった。
 知性の敗北以外のなにものでもないのである。
 負けたくなかった。
 それでは、負けないためには、どうすればよいのか。

21 :水先案名無い人:2005/06/10(金) 00:15:11 ID:Fts8HvMM0
 「赤方偏移」という現象がある。
 宇宙空間において、地球から高速に遠ざかる天体ほどドップラー効果により、
そのスペクトル線が赤色の方に遷移するという現象である。
 つまり、本来のナポリタンが何色であろうとも、ナポリタンが我々から
高速で遠ざかっているとすれば、毒々しく赤く見えるはずなのである。
 目の前のナポリタンは、はたして高速で動いているのか否か──
 それは、ナポリタンの反対側に回ってみることで、わかるはずであった。
 運動の逆方向から観察することで、スペクトルは青方遷移し、
青く見えるはずなのだ。
 ぶるりと、体が大きく震えた。
 体の中で、なにか、あついものが、じわじわと蠢いているようであった。
 ナポリタンが高速移動しているのかどうか、今すぐにでも確かめてしまえるのである。
 たまらなかった。
「おきゃああああっ」
 獣のように叫んだ。
 叫んで、ナポリタンの反対側に回った。 素晴らしい速さであった。
 その位置から見たところ、ナポリタンは赤いままであった。
 どうやら、このナポリタンは、高速移動をしていないようであった。
24 :水先案名無い人:2005/06/10(金) 20:06:33 ID:DAaI3PuX0
俺は、俺だ。
と、男は思った。
自分が闘えることは、俺だけが知っていればいい。
人から、ただの猫と呼ばれてもいい。
そう呼びたければ、呼べ。
何も、問題はない。
名前が無いことさえ、俺の闘いを妨げるものではない。

「応!」
もう一度、己の肉体に応える。
闘わない、という精神の強さが、男の最大の武器だったかもしれない。

男は、ただの猫だ。
名前は---、まだ、ない。
47 :水先案名無い人:2005/06/12(日) 20:17:37 ID:xaHv4BiX0
バン。
バラ。
バ。
バン。
ババン。
バン。
バ。
バン。
バン。
バラ。
ババン。
ババン。
バン。

おれがやめたら、誰がやるのだ――
そんなことはどうでもよくなっていた
しかし、ふつふつと肉の中から怒りがこみ上げてくる
全滅させなくてはいけない
誰を?
―― ハニワ幻人をだ

48 :水先案名無い人:2005/06/12(日) 20:33:15 ID:xaHv4BiX0
疾走れ
バンバンババン
“うるさいな”
奔れ
バンバンババン
“誰だ?”
意識を取り戻した。
ひゅん
ビッグシューターが疾風よりも速く飛んできた

ビルドアップ
ビルドアップ

ンバ
バンバ
ンバンバ
バラバンバン
ンバンバンバンバ
ババンババンバンバンバンババンバン
ビルドアップし放題だった。
腕が、飛び出していた。
足も、飛び出していた。
それが、磁石の力だった――
首だけが、辛うじて残った。
鋼鉄ジーグは半月以上手足なしの生活となった。

57 :水先案名無い人:2005/06/12(日) 22:11:34 ID:DVW2WgTR0
「チャーハン・・・作るよ――」
男の双眸の奥にこわいものが光る。
手にしたフライパンの上でチャーハンが踊る。
米飯が踊る。
豚肉が踊る。
野菜が踊る。
卵が踊る。
油で炒め、塩胡椒で味付けされたチャーハンが、踊る。
踊る。
踊る。
その時であった。
「アッ!」
信じられないものを見てしまった。
なんという事か――
チャーハンが宙を舞う。
香りほとばしるチャーハンが、虚空に舞った。
米飯が、豚肉が、野菜が、卵が、床に散らばった。
男の双眸は、光を失った。
膝から、力無く崩れ落ち、両の手を地に突いた。
失意の彼が、口を開いた。
「よし」
何がよし、なのか。
「バレてない――」
我が耳を疑った。
バレてないだと!?
まさか――
彼は無残に散らばったチャーハンを掻き集め、フライパンに戻した。
一粒残さず――
そして、そのチャーハンを皿に盛り、言った。
「できたよ」

58 :水先案名無い人:2005/06/12(日) 22:32:33 ID:4O0U5k+a0
>>57
なんという──
なんという、男なのか。
こぼれたチャーハンを、フライパンに戻す。
そして、それを相手に差し出す。
相手は汚いチャーハンを、疑いもせずに口へ運ぶのであろう。
このようなことを、するのか。
このようなことが、できるのか。
良心などといったものに邪魔されることなく、こういうことをしてのける。
たまらぬ男であった。

33 :水先案名無い人:2005/06/11(土) 21:11:20 ID:5PZgk7Xc0
「特技は、イオナズンとありますが」
その男――面接官が言った。
「はい、イオナズンです」
学生が、口元にうっすらと笑みを浮かべ、そう答えた。
「イオナズンとは、何のことですか?」
面接官が、再び質問した。
「魔法です」
「魔法!?」
88 :水先案名無い人:2005/06/13(月) 23:21:42 ID:spoTfLy10
>>33
にぃっ。
と。男が笑んだ。
「はい。魔法です」
くっきりと。
「敵全員に、大ダメージを与える、魔法です――」
そう、言い切った。
馬鹿な。
ここが、どこだかわかっているのか。
ここで――面接会場で、よりによって――
魔法などと!?
寒気に似たものが、背筋を通り抜けていく。
「――で」
ごろり。と石のように、重たい声が出た。
「その、イオナズンは当社において働くうえで……何のメリットがあると?」
この男、何を考えているのか――
そういう思いが、声に滲んでいるのがわかる。
学生が。
にいっ。
と。笑った。
「敵が襲ってきても、守れるじゃないか――」
「ぬぅっ!?」
馬鹿な――

89 :水先案名無い人:2005/06/13(月) 23:22:26 ID:spoTfLy10
「当社には、襲ってくるような輩はいない」
そろり。
と、面接官が言葉を紡ぐ。
「それに――それに、人に危害を加えるのは、犯罪だ――」
「でも、警察にも勝てますよ――」
この男……
この男、人の話をまるで話を聞いていない――
「いや、勝つとか、負けるとか……そういう問題ではない」
「敵全員に、100以上与えるんだぜ――」
言いきった。
ごうっ。
と。ひどく熱いものが、腹の奥から沸きあがってくる。
「ふざけないでくれ」
止まらない。
止まらない。
もう、この熱いものを止めることが出来ない。
「それに――それに100とは何だ!? だいたい……」
「100ヒットポイントだよ」
まるで、子供に教えるような口調で、男が言う。
「HPとも書くのさ……ヒットポイントというのはな……」
「そんなことは聞いていない!」
叫びそうだ。
「帰れ」
叫びそうだ。
「帰ってくれ!」
だが、そこを堪える。
「聞いてません。帰ってください」

90 :水先案名無い人:2005/06/13(月) 23:23:07 ID:spoTfLy10
そこに。
張り詰めた糸のように、今にもぷつりと切れそうなそこに。男が。
「あれ?」
と。
「あれあれ? 怒らせていいのかい――」
と。言葉を滑り込ませる。
「使うよ。イオナズン」
ぷつり。
そこで、糸が切れた。
「いいとも……」
もういい。
使いたければ、使うがいい。
「使ってみろ。イオナズンとやらを――」
それが、どうしたと言うのだ。
魔法などと、そんなたわけたものが、ある筈も無い。
「それで、満足したら、帰ってくれ」
男が。
にぃっ。
と。笑う。
そして。
「運がよかったな」
「何!?」
「今日はMPが足りないみたいだ――」
「帰れよ」

たまらぬ男であった。

101 :水先案名無い人:2005/06/14(火) 10:19:57 ID:dMMOFXDp0
「やあ、久しぶりだね……」
「お久しぶりです。 それで、今日は何の用なのですか──」
「うむ。 実はね、きみにどうしても話しておきたいことがあって、呼んだのだよ……」
「────」
「ヤバイのだ」
「ヤバイ?」
「本当に、ヤバイのだ」
「何がヤバイのですか──」
「宇宙だよ」
「宇宙!?」
「うむ。 宇宙はヤバイのだと、最近思うようになってきてね──」
「宇宙の、どういったところが、ヤバイというのですか──」
「まず、広い……」
「────」
「広いといっても、東京ドーム20個ぶんくらい、というレベルではない。 そんなものとは、レベルが違うのだよ」
「どのくらい、広いのですか──」
「無限だよ」
「無限……」
「凄まじいだろう。 その広さを表す単位は、ない。 何坪とか、何?fとかいうものを、超越しているのだ。 無限であり、超、広い──」
「────」
「しかも、膨張しているのだ。 これがまた、ヤバイ。 膨張だよ……」
「膨張ですか」
「普通、地球などは、膨張しないだろう。 なにしろ、自分の部屋の廊下が、だんだんと伸びていったりすれば、困るではないか。 トイレが遠過ぎるなど、たまらぬ──」
「たしかに、それは、困りますね」
「通学路が伸びて、一年のときは徒歩10分であったのに、三年のときは自転車で二時間かかるなどと、これではもう、泣いてしまう」
「はい」
「だから、地球などは膨張しない。 話のわかるヤツなのだよ、地球は──」
「なるほど」

102 :水先案名無い人:2005/06/14(火) 10:20:42 ID:dMMOFXDp0
「しかし、宇宙は、そのようなことを気にしないのだ。 とにかく、膨張する」
「────」
「想像してみたまえ。 最も遠くから届く光、などというものを観察してみても、よくわからぬほど、遠いのだよ」
「ヤバすぎますね」
「しかし、私はさっき無限と言ったが、もしかすると、無限ではないのかもしれない──」
「────」
「もしかすると、有限なのかもしれぬ。 しかし有限であるとすれば、では、宇宙の外側とは一体なんなのだろう?」
「わかりません」
「私にもわからぬ。 ヤバイだろう。 誰にも分からぬなど、凄まじいではないか──」
「はい……」
「あと、おそろしく、寒いのだ」
「どのくらい、寒いのですか」
「約1ケルビン……」
「1ケルビン!?」
「摂氏で言うと、−272℃になろうか──」
「────」
「これがまた、ヤバイのだ。 寒すぎる。 これでは、バナナで釘を打つ暇さえ、貰えないのではないか」
「恐ろしいですね」
「そして、何もないのだよ」
「何も?」
「うむ、何もないのだ。 凄まじいほど、ガラガラなのだよ。 それに、途方も無く、のんびりしておる。 億年などといった言葉が、するりと、出てくるのさ──」
「億年──」
「今や、小学生でも、億年などとは、言わぬだろう」
「────」
「なんといっても、宇宙は、馬力が凄い。 無限などといった事象に対して、平然としておる」
「我々には、無限などというものは、たかが微分積分で出てきただけで、上手く扱えません──」
「その通りだ。 だから、有限にしてみたり、fと置いてみたり、演算子を使ったりするのにだよ──」
「はい」

103 :水先案名無い人:2005/06/14(火) 10:22:04 ID:dMMOFXDp0
「しかし、宇宙は、まるで構わぬ。 無限を、無限のままに、扱っているのだ。 これは凄いことではないか」
「確かに、ヤバイですね」
「とにかく、我々は、宇宙のヤバさを、もっと知るべきではないか。 そう、思うのだよ──」
「では──」
「なにかね」
「それほどにヤバイ宇宙に出て行った、ハッブルというのは、凄いものですね──」
「うむ……」
「────」
「たまらぬ男だなあ、あれは……」

110 :水先案名無い人:2005/06/14(火) 19:23:26 ID:NFAs9lP20
生きて──、生きていたのか。
突然の出来事だった。
父が、生きていたなんて──。
急に体が熱くなった。
全身の血が、己の中を駆け巡るのが分かった。
駆け巡って、駆け巡って、駆け巡る血が、アムロの意識さえも邪魔をした。
生きていたのか。
今までどこにいたのか。
声が出ない。
にぃ。
父が笑う。
付いて来い。
背中がそう言った。

「これが──」
辿り着いた薄汚い部屋で、父が装置を取り出す。
古い油の臭い。
焦げた電子回路の臭い。
それは、ガラクタとも呼べぬ代物であった。
「これが、新しいパーツよ。これをガンダムに取り付けりゃあ……」
──分かるだろ、どうなるか?
父が笑った。
酸素欠乏症が、父を蝕んでいた。
このような父を、見たくはなかった。
声が出ない。
「持っていくんだろ、え?」
頷くしかなかった。

111 :水先案名無い人:2005/06/14(火) 19:26:19 ID:NFAs9lP20
「目の前の敵に、集中しなさい」
セイラが言った。
「言われなくったって──」
あっという間に、ザクを落とす。
今日のアムロの技は、重い。
切れ味の良い鉈を振り回しているようなものだ。
撃。
撃。
後ろから、ザク・マシンガンが放たれる。
まだ、いたのか。
と思った。
当たるものか。
と思った。
そう思えってしまえば、当たらない。
今日の自分は、神懸っている。
装置のせいではない。
あんなものは、ホワイトベースに帰る前に捨ててきた。
いや、いっそのこと、目の前で壊してやれば良かったか。
そうすれば、父も──
アムロは高揚した自分に気が付いた。
父に会ったせいなのか?
マシンガンを放し、ヒートホークに持ちかえるザクを正面に捉えながら、アムロは父を思い出した。

112 :水先案名無い人:2005/06/14(火) 19:26:56 ID:NFAs9lP20
父は優秀な科学者だった。
優秀であるがゆえに、ガンダムの建造に関わることとなった。
渡された装置を思い出す。
酸素という毒物に脳を壊されてさえも、正しく、正確に造り上げられた、ガラクタ。
それが、父の優秀さを示していた。
その優秀さの中に、間違い無く獣が潜んでいる。

あなたは人間より、モビルスーツが大事なんですか──

吠えない。
吠えないが、その無言の遠吠えが、闘いの中で現れる。
だから、技が重い。
斬。
ビームサーベルが、肩を貫く。
手応えが、コックピットにまで伝わってくる。
それで、勝負はついた。

「ええい、ホワイトベースはいい!ガンダムを写せ、ガンダムの戦い振りを──」
父が言った。
衛星を介して生まれるリアルタイムとのズレが、そのまま父と息子のズレであった。
「か、勝った!勝った!これが新しいパーツの威力だ!見たか、ジオンめ──」
父はテレビに向かってしゃべり続ける。
つまらぬ勝利であった。
虚しさだけが残った。

130 :水先案名無い人:2005/06/15(水) 15:26:48 ID:owvh9Kg80
「乱太郎、きり丸、しんべヱ―― 」
振り返りもせず、土井半助が言った。
自分は机に向かったままである。
「乱太郎、きり丸、しんべヱ―― 」
もう一度言う。
自分の教え子たちの名である。
部屋には誰もいない。
だが、半助の独り言ではない。
そういう男ではない。
土井半助は、三人を呼ぶために、名前を唱えたのだ。
忍術を知らぬものには、ただただ奇異に映る行為であった。

まだか。
と、半助は思った。
あれほど、今日はお使いを頼むからと言っていたのに――
また、遊びに行っているのか――
へとへとになるまで訓練した後で、まだ動けるか――
くく。
知らず、笑みがこぼれる。
体力だけは、一人前だな――。
だが、いつもいつもこれではさすがに便が悪い。
ならば、この書き上げた書を誰に託すか――
そう思った、刹那であった。

「土井先生――」
気がつけば、部屋に気配が増えていた。

131 :水先案名無い人:2005/06/15(水) 15:28:13 ID:owvh9Kg80
「あれ?」
半助は、ゆっくりと振り返りながら言った。
「あれあれ? 山田先生、どうかしましたか?」
何時の間にか後ろを取られていたことに、少なからず動揺したことの裏返しであった。
乱太郎たちではなかった。
いくらなんでも、生徒の気配に気付けぬわけがない。
山田伝蔵。
忍術学園に長年勤める、土井半助の先輩である。
鋭い目と、野太い声。
志望を極限まで落とした、無駄のない筋肉。
非情なまでに忍術を求めた、結晶のような男であった。
だが――、それでも――
後ろを取られるとは、思わなかった。
だてに、修羅場はくぐってない、か――
山田伝蔵という人物を改めて知った思いであった。

「土井先生、乱太郎たちにお使いを頼んだでしょう?」
伝蔵が口を開く。
年下の半助への馬鹿丁寧な言葉遣い。
小馬鹿にされているようで、半助はその口調が嫌いだった。
「あれね、私が代わりに行くことになりましたから――」
耳を疑った。
この男、今、なんと言った?
生徒のお使いを――自分が代わる?
半助には、到底信じられぬ言葉であった。
そのような発想を持つ人間がいるのか。いたのか。
忍術学園というぬるま湯に浸かって、精神まで犯されてしまったのか。
その肉体が鳴いているではないか。
いや、鳴いていることにすら、気付いていないのか?
俺は、このような男に、後を取られたのか。

132 :水先案名無い人:2005/06/15(水) 15:31:41 ID:owvh9Kg80
糞。
やり切れぬ。
半助の中で抑えていた何かが、急に熱をもって動き出していた。
いっそ、今ここで殺してやろうか。
内臓を抜き取り、その秘密の染み付いた肉体を、嬲ってやろうか――
ぎりっと緊張が肉の中に張り詰めた。
――だめだ。
冷静になれ、と別のところから声がする。
寸でのところであった。
殺気を静めるのが、もうわずか遅れていれば、伝蔵のところにまで届いていたであろう。
己の中には、思ったより凶暴な獣がいるらしい。
ふう。
息を吐く。
もう一度、呼吸を調えて、
「なぜ山田先生が――」
やっと言った。
「いえね、最近、外に出ることがなくて――」
女装する機会がないんですよ、恥かしそうに伝蔵が言った。

ぶちり
筋肉の弾ける音であった。

133 :水先案名無い人:2005/06/15(水) 15:38:49 ID:owvh9Kg80
肉の中で張り詰めて張り詰めて、悲鳴をあげた筋肉たちが弾ける音であった。
このまま――
このまま、弾けるままに暴れられたら、どんなにか気持良いだろう――。
ぶちり
筋肉の弾ける音がした。
これ以上は、抑えることはできない。
「いえ、自分が――」
もう、だめだ。
「自分が行きますから――」
やっと言った。

157 :水先案名無い人:2005/06/17(金) 20:27:53 ID:6IEEX3Cq0
とにかく、アメリカ人のバーベキューへの執念である。
いや、妄執である。
ほとんど、妄執である。
海外赴任中の出来事であった。
取引先の巨漢に誘われ、私は赴いたのである。

そこにあったのは、
肉。
大量の、肉。
しかし、それは肉と呼ぶにはあまりにも白かった。
ほとんどが、脂肪だった。
トレイからずり落ちそうな脂肪。
中に、赤身がわずかに挟まれていた。
肉。
巨漢が、ひたすらにナイフを振るう。
ひたすらに──
横で見ている息子と娘の目。
尊敬と、欲望が入り混じる獣の視線。
肉。
肉を切る男の目に、こわいものが宿る。
脂を割く、音ともつかぬ音。
ふと、
「──ダディクール」
息子が呟いた。
化け物の声のようであった。

158 :水先案名無い人:2005/06/17(金) 20:28:25 ID:6IEEX3Cq0
肉。
いよいよ、焼くようだ。
切られた肉が、どす黒い鉄板に乗る。
洗われていない鉄が、燃料の熱を脂肉に伝える。
音。煙。臭。闇。赤。汁。脂。
顔を背けた。
吐き気──が、した。
皿に、ぶよぶよのそれが乗る。銀器が出てきた。
アメリカ人が口を開ける。中の粘膜が、震えていた。
口の中から、獣臭、とともに、真紅の欲望が、見えるような気がした。
私は戦いていた。
涙。

肉。
鉄。
脂。
汁。
肉。
脂。脂。
肉。脂。脂──
ただただ、食う。
巨獣が焼き、巨獣が食う。
ただただ、食う。
喘いだ。空腹を忘れ、喘いだ。
涙。


159 :水先案名無い人:2005/06/17(金) 20:29:24 ID:6IEEX3Cq0
──宴。
これが、宴と呼べるのか。
──そうだ。
これが、バーベキューだ。
エコノミックアニマル──
そう、獣の目が言っていた。
5キロの肉が、無くなっていた。

ふと見ると、何かを飲んでいる。
ダイエットと書いてある。コーラやビールの類らしい。
「今日は僕も飲んじゃう」息子が言う。
「ああ、酔っちゃった、あなた素敵ね」娘が言う。
欲望の視線に刺され、身を縮めた。
「太っちゃったわね」妻が言う。
「カロリーゼロだから大丈夫さ」獣が言う。
理解できなかった。
これが──
これが、アメリカンジョークというものか。
そうなのか。
なんという──
なんという、傲慢なのか。

そうなのだ。
アメリカ人とバーベキュー。
この組み合わせには、注意が──いる、のだ。

188 :水先案名無い人:2005/06/18(土) 18:53:43 ID:jGePFx+q0
度重なる天変地異に、人間の本能が恐怖する・・・。
平成とは名のみのこの時代に、一人の男が覇を唱えた。

「今・・・必要なのは・・・政権交代ではないかっ!!!!!」

時勢を完全に読み違えるが故に、電脳世界で好評を得る。
だがあくまで本気なのだこの男は、本気で政権交代をすれば、天変地異が止まると言う。

たまらぬ男であった。

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